おおぞの備忘録

引きこもりたがりの備忘録。

「孤島の鬼」読書感想

乱歩は読んだことなかったのですが、なんとなく目について読んでみました。

昔のミステリーはホラー要素多めな気がします。結構怖かったです。夜に読むのはお勧めしません。

 

読んだの結構前なんですが、記事書いただけで出せてなかった。

以下、ネタバレ満載です。

 

あらすじ

主人公・蓑浦の恋人である初代が何者かに殺害された。しかし殺害現場は密室。犯行は誰にも不可能と思われた。

復讐に燃える蓑浦は知り合いの深山木と共に密室殺人のトリックに挑むが、その深山木も衆人環視のもと殺害される。蓑浦は旧知の仲である諸戸に疑いの目を向ける。彼は蓑浦に想いを寄せており、彼への独占欲からか初代に求婚するもふられ続けていた。

だが実際は、諸戸は初代への罪悪感から探偵役を務めようとしていたことが判明。ふたりは手を組み、初代と深山木殺害の犯人を追うが……。

感想

早い段階で事件の種明かしをされたので、あら?あとは何をやるの?と思いましたが、ここからが本番だった。

衝撃的な雑記帳から明らかになる人道に外れた目論み、殺人の首謀者である父親に挑む諸戸と蓑浦、そして死と紙一重の宝探し。

一冊にこんなに詰め込んでいいのかと思うほどの密度でした。文句なしに面白いですが、現代日本では出せないだろうな。


密室のトリックは、これは当時の建築に明るくないと解けない。衆人環視のほうは、こうとしか考えられないけどそんなまさか、で解けなかったです。ミステリそこそこ読んでる割にこのていたらく。わたしは探偵にはなれない……。

常識を打ち破って見事犯人を推理して捕まえた諸戸。かっこいい。彼がホームズで蓑浦がワトソンで話が進むのかなと思いきや、後半は推理というよりサスペンスで、諸戸の推理力が発揮されるシーンは特にない。

ていうか蓑浦、振り返るとなんもしてない気がする。復讐に燃えるわりに、諸戸におんぶに抱っこ。諸戸が優秀過ぎるのもありますが、そもそも彼は他力本願が過ぎる。自分が甘えん坊タイプで顔がいいことを自覚して最大限に利用してます。わたしは好きになれなかった。

孤島の鬼

一連の事件の首謀者であり諸戸の父親、丈五郎。彼がしたことは到底許されることではないんですが、諸戸に力を貸してくれと泣きつくところはちょっと同情心が湧きました。世の中を憎む鬼である丈五郎が人間らしさを見せるとは思っていなくて。

誰だって生まれたくて生まれたわけではないですよね。好き好んで醜く生まれたわけでもない。その理不尽を克服できるかは運でしかなく、そして丈五郎にその運はなかった。

生まれながらに背負った理不尽は、直視して克服するか目を背けて逃げるかしかないんだろうか。そこ含めて理不尽ですよね。丈五郎は他人を自分の理不尽に引きずりおろすことを選んだわけですが、その気持ちはちょっとわかる。克服できないなら自分と同じ不幸を増やしてやりたいと思うのは理解できる。

諸戸道雄

諸戸がひたすらに可哀想で可哀想で、どうしてこんな仕打ちをするのかと……。

なにも得られないまま亡くなった彼の人生はなんだったんだろう。人生なんだったんだろうキャラクターランキング堂々の一位といっても過言ではない。同率一位でディミトリ・アレクサンドル・ブレーダッド(翠風銀雪)かしら。

諸戸を庇うつもりはないです。蓑浦に無体を働こうとしたのは、やっぱり許されることではないし。

でもあの極限状況で蓑浦を襲ったのは、自分の父親があんなで、それなら自分もどうせ鬼だ、どうせ死ぬなら鬼になってしまえと自棄になってしまったんだろうなと思うと憎みきれない。

憎い母親と同じことを蓑浦にしてしまった諸戸。過去蓑浦に迫ろうとしても「僕はそんなことしない」と言ってやめたのに。

自分の人生に、自分自身にも追い詰められた諸戸は死ぬしかなかったんでしょう。死しか救済がない。


あとは吉ちゃんも可哀想だなと思いますね。被害者ですよね。泣くほど好きだった秀ちゃんはぽっと出の蓑浦に奪われて。

丈五郎側についても仕方なかったかなと思います。

吉ちゃんと結ばれても秀ちゃんが幸せになれたとは思えないんですが、もし丈五郎の悪事に巻き込まれずまっとうに育って出会っていたら、もしかしたら普通に恋人になれたかもしれない。秀ちゃんが好きと泣いた吉ちゃんが切ない。

魔性の鬼

蓑浦こそ鬼じゃない?彼の諸戸への仕打ちがほんとにひどくて。諸戸のことを人間だと思ってないんでしょう。きっと。

イケメンに好かれることが自分の価値を上げると思ってるタイプでしょう。諸戸はどうしてこの男がいいの?自分の恋情を弄ぶ男なんてやめなよ。

まあ興味ない人から好かれても気持ち悪いだけっていうのはわからないでもないですけど、でもさ……どう考えても簑浦、諸戸に対して優越感抱いているじゃない……?諸戸の恋心はあなたの自尊心を満たすためのツールではないのですが?

 

諸戸のことは差し引いても、初代の敵討ちに来た早々可愛い女の子に一目惚れするな。初代が草葉の陰で恨んでるかも、じゃないわ。

結局初代の妹でしたが、だからなんですか?初代の導きなんて勝手な理屈つけないでほしい。


そしてラストの蓑浦、自宅の外科医院の院長を諸戸に任せようとしてたらしいんですが、諸戸が結婚生活を目の当たりにすることをどう考えていたのかなと。迷路の中でやっと感じた罪悪感はどこに行ったのかと。

孤島の鬼ってそういう意味なの?蓑浦こそが鬼でしたってそういうこと?

孤島の鬼読者は蓑浦の悪口で盛り上がれると思う。わたしは嫌いです。

ていうか蓑浦のファムファタールっぷりすごいですね。初代も深山木も諸戸も碌な目に遭ってない、全員不幸な死に方してる。

蓑浦は島の外に出てこないのがいちばんなので、そこはよかったかなと思います。絶対に出てこないで。

秀ちゃんは……ちょっと不安ですね。大丈夫かな。彼女の人生もめちゃくちゃにならないか不安。